イタリアはローマやフィレンツェ、ベネチアなど、世界的に有名な観光都市を多く抱える魅力的な国です。文化、芸術、歴史、美食にあふれ、毎年多くの観光客が世界中から訪れています。一方で、旅行者が多く集まるということは、それだけ軽犯罪も発生しやすい環境でもあるということ。特にスリや置き引き、詐欺といった犯罪は、日本人観光客も少なからず被害にあっています。
「ヨーロッパの中でも比較的治安がよい」と言われることもあるイタリアですが、それはあくまでも「気をつけていれば」という前提付き。現地のリスクやマナーを正しく理解し、安心してイタリア旅行を楽しめるようにしましょう。
イタリアの治安事情を正しく理解しよう
ここでは、在イタリア日本国大使館の海外安全対策情報(2025年1月~3月)を基に、日本との治安の違いや地域別の注意点などを紹介します。
日本と比べたイタリアの治安感覚
日本は治安の良さに定評があり、世界的に見ても安心して暮らせる国のひとつです。夜遅くに女性がひとりで歩いていても不安を感じることは少なく、落とした財布がそのまま戻ってくるようなことも珍しくありません。電車の中で眠ってしまっても危険を感じずに済みますし、公園やカフェでバッグを無造作に置いておいても盗まれる心配がない、そんな「当たり前」が日常にある国です。
一方で、イタリアではこのような感覚が通用しない場面も多くあります。イタリアは観光大国であるがゆえに、観光地を狙った軽犯罪が非常に多く、旅行者が被害にあう事例も後を絶ちません。特にスリや置き引きといった「目を離した一瞬」を狙う犯罪は、非常に巧妙かつ組織的に行われているようです。観光客の中でも警戒心の薄い日本人は格好のターゲットになりがちです。
スリ・置き引きが多いエリアとその対策
2025年の1月から3月にかけて、在イタリア日本国大使館には日本人の被害報告が42件寄せられました。そのうち最も多かったのがスリで30件、次いで置き引きが9件と、軽犯罪が大半を占めています。
報告によると、地下鉄の混雑を意図的に作り出してバッグから財布を抜き取る、駅構内のエレベーターで密集する人混みに紛れて手荷物を盗まれる、というように、複数人で連携した巧妙な手口が目立ちます。
また、列車の網棚に置いた荷物がそのまま盗まれていたり、ホテルのロビーで案内を受けている間にカバンが消えていたりと、置き引きの被害も少なくありません。ちょっとした油断や、ほんの数分の無防備が、大きなトラブルにつながってしまうのです。
こうした軽犯罪が特に多く報告されているのが、ローマのテルミニ駅、ナポリ中央駅、ミラノのドゥオモ周辺など、観光客が集中する場所です。エスカレーターや電車の乗り降りの際など、人が密集するタイミングで、不自然に距離を詰めてくる人物には十分に注意が必要です。
観光地で注意すべきこと
イタリアの有名な観光地では、風景や建物の美しさに思わず夢中になってしまう場面が多くありますが、同時にスリや詐欺といったトラブルも起こりやすい場所です。特に人通りが多く、観光客でにぎわっているエリアほど、狙われやすくなります。
たとえば、コロッセオやトレビの泉、フィレンツェのドゥオモ周辺などでは、写真を撮っている最中に後ろから近づかれ、バッグやポケットから貴重品を抜き取られるケースが報告されています。スリの手口は非常に巧妙で、数人でグループを組み、1人が話しかけて注意を引きつけている間に、もう1人が素早く手を伸ばすという分業スタイルが多く見られます。
実際によくあるのが、「道に迷っていませんか?」や「写真を撮ってあげますよ」といった声かけです。一見親切に見えるものの、これは注意をそらすための常套手段で、話しているあいだにカメラバッグやポシェットから財布やスマートフォンが抜き取られていた、という事例も少なくありません。こうした声かけには、できるだけ距離を取り、「ありがとう、大丈夫です」と笑顔で断るのが安全です。
バッグは体の前にしっかり持ち、チャック付きのものを使うのが基本です。リュックを背負ったまま歩くのは避け、スマホや財布などの貴重品は外ポケットに入れないようにしましょう。カメラやスマホを使うときは、周囲を見回してから立ち止まり、人通りの少ない壁際やベンチの近くなど、落ち着いた場所で操作するのがおすすめです。
また観光ではミサンガ詐欺と呼ばれるものにも注意が必要です。親切そうな顔で近づいてきて、ミサンガを腕につけたり、花を渡してきたりして、その対価にお金を要求するというものです。いらないということを毅然な態度で伝えて断りましょう。そうしたやり取りをして、焦っているところをスリが盗むということもあるので、二重三重に注意が必要です。
夜間の外出は安全?エリアごとの注意点
夜に外を歩くときは、日本にいるときの感覚のままで行動しないほうが安心です。観光地や市内中心部は夜でも明るく、人通りもあって比較的安全に感じられることがありますが、通りを一本入っただけで急に雰囲気が変わることも。街灯が少なく、人の気配もなくなるような路地は、できるだけ避けたほうがいいでしょう。
たとえば、ナポリの旧市街やローマの郊外などでは、昼間はにぎやかでも夜になると様子ががらりと変わります。ホテルの場所を決めるときには、夜の治安や周囲の雰囲気をあらかじめ調べておくと安心です。
夜遅くに移動が必要なときは、なるべくひとりで出歩かず、誰かと一緒に行動するか、タクシーや配車アプリを利用するのがおすすめ。徒歩での移動が避けられない場合でも、なるべく明るく人通りのある通りを選ぶようにしましょう。
イタリアで気をつけたいマナー・習慣
イタリアを訪れると、文化や人々のふるまいが日本とは大きく違うことに気づく場面がたくさんあります。旅先で戸惑わず、気持ちよく過ごすためには、現地のマナーや習慣を事前に少しでも知っておくことが大切です。ここでは、旅行中によくある場面ごとに、知っておくと安心なマナーをご紹介します。
レストランでのマナー(席料・チップ・注文の仕方)
イタリアでレストランに入ると、まず気になるのが「コペルト(Coperto)」と呼ばれる席料です。日本ではあまり馴染みがありませんが、イタリアではテーブルのセット代やパン代として1〜3ユーロほど加算されるのが普通です。これは多くの飲食店で共通の習慣なので、料金明細に記載されていても驚かないようにしましょう。
チップについても、日本とは少し感覚が違います。イタリアではチップは義務ではありませんが、サービスが良かったと感じたら1〜2ユーロ程度を置くのが一般的です。高級店などでは合計金額の5〜10%ほどを渡すこともありますが、多くのお店では端数を繰り上げるくらいで十分です。
注文のときには、店員さんがテーブルまで来てくれるのを待つのが基本。大きな声で呼んだり手を叩いたりすると、失礼に思われることもあります。軽く手を挙げたり、目を合わせたりして合図を送るくらいがちょうどいいでしょう。
料理はコースだけでなく、1品ずつ好きなものを注文する「アラカルト」も一般的です。パンや水は別料金のことが多く、特に水は炭酸入りかどうか(ナチュラーレ=炭酸なし/フリッザンテ=炭酸あり)を聞かれることがあります。わからなければ、メニューを指差して頼むのもOKです。遠慮せず、気になることは聞いてみましょう。
教会や美術館での服装・態度
イタリアでは、教会や美術館を訪れる機会が多くありますが、これらの場所は「観光スポット」であると同時に、信仰や文化を大切にする場でもあります。そのため、訪れるときの服装や振る舞いには少し注意が必要です。
まず服装について。特に教会では、肩や膝が出るような露出の多い服装は避けるのがマナーです。バチカンのサン・ピエトロ大聖堂などでは、入り口で服装チェックがあり、適さない服だと中に入れないこともあります。ノースリーブやショートパンツを着る場合は、羽織ものやストールを用意しておくと安心です。
教会の中では、大声で話したり、写真を撮ったりするのは控えましょう。場所によっては撮影自体が禁止されているところもあります。また、帽子をかぶっている場合は、建物の中では外すのが礼儀とされています。
美術館も同様に、静かに鑑賞することが求められます。作品に近づきすぎたり、触ったりするのはもちろんNG。順路を無視して進んだり、電話で話したりすると、注意を受けることもあります。まわりの人と心地よく空間を共有するという気持ちを持っていれば、自然とマナーも守れるはずです。
日常生活での挨拶や振る舞い
イタリアの人たちは、日常の中でのちょっとしたやりとりをとても大切にします。たとえば、カフェに入ったときやお店で店員さんに声をかけるときなど、最初に「ボンジョルノ(こんにちは)」や「ブオナセーラ(こんばんは)」とあいさつをするのがごく自然なふるまいです。何も言わずに話しかけるより、ひとこと添えるだけで、印象がぐっとよくなります。
お礼の言葉もとても大切です。お会計のときやドアを開けてもらったときに「グラツィエ(ありがとう)」と伝えると、笑顔で返してくれることが多いでしょう。逆に、何も言わないとそっけない人だと思われてしまうこともあります。
また、イタリアでは人と話すときに目を見て話すのが基本です。視線をそらすと「自信がない」「話を聞いていない」と感じられることがあり、文化の違いを感じる部分かもしれません。でも、相手の目をしっかり見て話せば、誠意が伝わりやすくなります。
電車やバスの利用時に気をつけること
イタリアの公共交通機関はとても便利ですが、乗り方やマナーが日本と違う部分も多いため、注意が必要です。まず、バスやトラム、ローカル列車では「乗車前に切符を購入し、打刻(バリデーション)する」のが基本ルールです。これを忘れると、たとえ正規の切符を持っていても不正乗車とみなされ、高額な罰金を課されることがあります。
改札がない駅ではつい油断しがちですが、打刻機を見逃さず、必ず乗る前に処理を済ませておきましょう。また、混雑時の車内では、スリなどの軽犯罪が発生しやすくなります。リュックやバッグは背負ったままにせず、必ず体の前に持ち替えてください。車内でスマートフォンや財布を取り出す際も、まわりに不審な動きがないか気を配るようにしましょう。
トラブルを避けるための準備と心得
旅先でのトラブルは、ちょっとした油断や準備不足から起こることが多いものです。特に海外では、日本と同じ感覚で過ごしていると、思わぬ事態に巻き込まれてしまうこともあります。ここでは、イタリア旅行中に起こりやすいトラブルを避けるための基本的な備えと、覚えておきたい行動のコツを紹介します。
パスポートや貴重品の管理方法
パスポートは、イタリアでは常に携帯が求められる身分証明書です。ただし、街歩きの際にむき出しで持ち歩くのは危険です。盗難や紛失に備えて、原本は貴重品ポーチなどで肌身離さず管理しつつ、コピーを別の荷物に入れておくと安心です。
ホテルの金庫に預けるのも選択肢のひとつですが、外出時には万が一に備えて、コピーやパスポート番号、発行日、有効期限を控えたメモを携帯しておくと手続きがスムーズです。万一紛失した場合に備え、大使館の連絡先もあらかじめ控えておくと安心です。
クレジットカード・現金の持ち方のバランス
イタリアではクレジットカードが広く使われていますが、市場や小さなカフェ、地方の施設では現金のみの対応ということも少なくありません。そのため、クレジットカードと現金はバランスよく持ち歩くのが理想的です。
クレジットカードはブランドを分けて2枚以上用意しておくと、万が一1枚が使えなくなった場合にも対応できます。現金は多額を一度に持ち歩くのではなく、財布・サブポーチ・ホテルの金庫など複数箇所に分けて管理しておくと、盗難時の被害を最小限に抑えられます。
また、ATMで現金を引き出す場合は、人通りのある明るい場所を選び、周囲に不審な人がいないか確認してから操作するようにしましょう。
スマホの使い方と通信環境の注意点
スマートフォンは旅の強い味方ですが、外で無防備に操作していると、スリやひったくりに狙われやすくなります。道に迷ったときや地図を確認したいときは、できるだけ人の少ない場所や壁際などで立ち止まり、周囲を確認してから使いましょう。レストランでの食事中に不用意にテーブルに置くのもNGです。カバンと紐で繋げておき、基本的にはしっかりチャックのついたカバンの中にしまっておくという対策もありですが、紐がついているから大丈夫と油断することないようにしましょう。
通信環境については、海外用ポケットWi-Fiのレンタルや、現地SIMの購入、またはeSIMの活用など、あらかじめ準備しておくことで安心してインターネットを利用できます。イタリアではホテルやカフェなどにフリーWi-Fiがある場合もありますが、セキュリティ面では注意が必要です。パスワードのないWi-Fiは、SNSやネットバンキングの使用を避けましょう。
困ったときのための連絡先・対応方法
旅先でパスポートをなくしてしまった、荷物を盗まれた、体調を崩したなどのシーンで慌てないためにも、緊急時の連絡先や手続き方法をあらかじめメモして持っておくことが大切です。
在イタリア日本国大使館や各都市の領事館の連絡先、最寄りの警察署や病院の情報は、スマホと紙の両方で控えておくと安心です。クレジットカードを紛失した場合の連絡先や、旅行保険会社の電話番号などもあわせてまとめておくと、いざという時にスムーズに行動できます。
女性や一人旅でも安心して楽しむために
初めての海外旅行や一人旅に不安を感じる方も多いかもしれませんが、イタリアはひとりでも十分に楽しめる魅力あふれる国です。ただし、安全に過ごすためには、いくつかのポイントを押さえて行動することが大切です。
女性旅行者が気をつけたい場面と対策
イタリアの人々はフレンドリーで、男性が気軽に話しかけてくることもよくあります。なかには軽い口調で声をかけてくる人もいますが、無理に会話を続ける必要はありません。はっきりと「ノー」と伝えることが、むしろ誠実な対応と受け取られることが多いです。
また、露出の多い服装は視線を集めやすくなるため、日中でも肌の露出は控えめにしておくと安心です。夜間の一人歩きはなるべく避け、遅い時間の移動にはタクシーや配車アプリを活用しましょう。万一のときのために、ホテルの住所・連絡先を紙に控えて持ち歩くと心強いです。
一人旅でも安心な過ごし方のコツ
ひとり旅では、行動の自由さと引き換えに、注意を払う場面も増えます。ホテル選びでは「駅から近い」「明るく人通りの多い場所にある」など、でも安心して歩ける立地かどうかを重視しましょう。チェックイン時にはスタッフと軽く会話をして、土地の情報や危険なエリアについて尋ねてみるのもおすすめです。
また、現地の観光ツアーに部分的に参加するのも、安全かつ効率的な方法。ひとりではアクセスしにくい場所にも行けて、同じ旅人との交流が生まれることもあります。人と関わることで、旅がより思い出深いものになるかもしれません。
まとめ
イタリアは、歴史や芸術、グルメがあふれるとても魅力的な国ですが、日本とは文化や治安の感覚が異なる場面も多くあります。観光中に被害に遭わないためには、「ここは海外であり、自分は旅行者である」という意識を常に持ち、行動することが何より大切です。
今回ご紹介したように、スリや置き引きへの対策、公共交通機関の使い方、マナーや服装のポイント、そして一人旅や女性の旅で気をつけたいことなど、ほんの少しの準備と心がけが、安全で快適な旅につながります。
「怖がるのではなく、備えておく」。このスタンスを持っていれば、トラブルを回避しながら、イタリアの美しい街並みや人々とのふれあいを思いきり楽しむことができるはずです。しっかり準備を整えて、心に残るステキな旅をお過ごしください。
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